「株式会社 石見銀山生活文化研究所」のサイトには、こんな言葉が書いてあります。
この地に関わる全ての人の幸せと誇りのために、私たちは復古創新というモノサシで美しい循環を継続していきます。(引用:「石見銀山生活文化研究所」公式サイト)
分かるような、分からないような……。「復古創新」とは、会社の理念。古いものをそのままよみがえらせるのではなく、何か新しい視点を加えてよみがえらせる、ということを指しています。
では、「美しい循環」、「継続」とは? そして、「この地に関わる」ということばの真意とは?
会社のことを「群言堂」と呼ぶ人もいれば、「石見銀山生活文化研究所」と呼ぶ人もいる。化粧品ブランド「MeDu(めづ)」の作り手だという人もいるし、宿「他郷阿部家(たきょうあべけ)」がとにかく良い、と言う人もいる。
「石見銀山生活文化研究所」って、一体どんな会社なの? 広報課の三浦類さんに聞いてみました。
[1] 1988年創業、松場大吉・登美夫妻が作った会社です
三浦類(以下、三浦) はじまりは、1981年に、現在の「石見銀山生活文化研究所」の会長・松場大吉と所長であり妻の松場登美が、大吉の実家がある島根県大森町に帰郷したことにあります。
当初は「ブラハウス」というブランド名で、手作りのエプロンやキッチン小物、インテリア雑貨をつくって全国に卸売していたそうです。その頃の企業名は「有限会社 松田屋(松田屋は松場家の屋号)」。
「石見銀山生活文化研究所」を設立し、群言堂ブランドを立ち上げたのは、それから17年経った1998年のことですから、2人は長らくブラハウスを営んでいたということになりますね。
── 1988年というと、私と三浦さんは同世代で今年30歳を迎えますから、私たちが産まれた頃、ということになりますね。
三浦 そうですね。その頃から2人は大森町で暮らし、現在の会社の礎を築き始めたということになります。
「石見銀山生活文化研究所」が一体何をしている会社なのかと問われたら、「石見銀山で生活文化を研究している会社」という答えになります。でもそれでは意味がわからないと思いますので、もう少し補足させていただきましょう。
ちなみにこちらが簡単な組織図です。
(イラスト:犬山ハルナ @pandayama86)
[2] 衣料品ブランドの群言堂をつくっています
三浦 群言堂ブランドのはじまりは、「登美」です。登美は、「着て楽、見て楽、心が元気」をコンセプトに、所長が「大森町に似合う服をつくりたい」という想いで始めました。素材にこだわり、生地づくりから商品企画をし、「備後絣」や「亀田縞」、「マンガン絣」の産地に積極的に発注するなど、日本の織物技術の継承を強く意識しています。
三浦 その後、2007年に登美の娘世代にあたるブランド「根々」を立ち上げ、2014年に「Gungendo Laboratory」という新ブランドを発表しました。
三浦 Gungendo Laboratoryは、所長が長年思い描いてきた服作りを、若い感性で体現したブランドです。ターゲット層は、群言堂の中でも最も若い、20〜30代の方。登美の服を10代の方に着ていただくこともあるので、ターゲット層というのは一概には言えませんが、Gungendo Laboratoryは特に若い世代の方を意識しています。
[3] 化粧品ブランド「MeDu」を始めました
三浦 アパレルだけでなく、最近では化粧品の開発・販売にも力を入れています。MeDu(めづ)は、「良い一日は、夜からはじまる」をコンセプトに掲げていて、石見銀山に咲く梅の花から発見した自然酵母「梅花酵母」を活かして作った化粧品です。
「石見銀山生活文化研究所」が伝えたい、衣食住を中心とした暮らしの中には、健やかな肌で生きることも含まれます。お子様にも使っていただける天然成分を活かしたスキンケアアイテムなので、年齢性別を問わず、家族でご使用いただけます。
[4] 世の中が捨てたものを拾って活かす、古民家改修
三浦 群言堂やMeDuなどの商品開発・販売はもちろんですが、一方で「石見銀山生活文化研究所」は、古民家再生にも力を入れています。
── ちょ、ちょっと待っていただいてよろしいでしょうか? 「石見銀山生活文化研究所」さんは、洋服の会社……ではないのですね?
三浦 はい、そうですね。洋服“も”つくっています。弊社は大森の暮らしを伝える会社。活動はすべて大森町に根ざしています。登美や根々、Gungendo Laboratoryが基幹事業であることに間違いはありませんが、暮らしを伝えるひとつの手段だと思っています。
古民家再生は、会長と所長が若いころから大切にしてきた事業で、「石見銀山生活文化研究所」を貫く、復古創新の精神を体現する分野でもあります。
「群言堂本店」の買い上げ・改修を皮切りとして、1軒の移築を含め、これまで9軒の古民家を再生してきました。現在は10軒目を改修中。松場登美自らがそこで暮らしながら、外壁や壁、家具や家財など細かい部分まで少しずつ直している最中です。
[5] お食事もできる、群言堂本店があります
三浦 群言堂本店は、当然かもしれませんが大森町内にあります。会長の生家の向かいの家を買い取り、改修しました。登美などの群言堂ブランドをはじめ、日本全国の器や雑貨、食品などを中心に取り扱っています。
三浦 本店にはカフェを併設しており、四季折々の旬の味覚や、大森町でゆっくりと過ごす時間を堪能していただける空間になっています。
[6] 東京の西荻窪には食べることを考える「Re:gendo」があります
三浦 ところは変わり、東京都の中央線沿いの西荻窪という駅で、「Re:gendo(りげんどう)」という名前の飲食店も経営しています。オープンは2011年9月で、こちらも昭和初期の住宅を再生しています。
三浦 ランチメニューは、「むすび膳」と「にぎり膳」の2種。病を治すことを「手当て」と呼んだり、祈る際に手のひらを合わせたりと、日本人は手のひらに何か不思議な力を見出してきました。ひと手間かけて食事をつくって提供したいと、「手のひらの料理」をコンセプトにしたお料理を提供しています。
[7] 大森町へ来たら暮らす宿・他郷阿部家へどうぞ
三浦 1789年創建、築227年の武家屋敷を再生した宿の「他郷阿部家(以下、阿部家)」は、これまでご説明してきた「石見銀山生活文化研究所」の衣食住、現時点で大切にしたいことがすべて詰まっていると言っても過言ではない、弊社にとって非常に重要な場所です。
基本的には外からいらっしゃったお客さまがお泊まりいただける宿泊施設ですが、つい最近まで所長が暮らしておりました。
── 私が一番最初に阿部家にお邪魔したのは2015年の秋でしたが、一歩踏み込んだとき、息を呑みました。一朝一夕では辿りつけない、圧倒的な時間と実行の積み重ね、手のひらがつくりあげた全体の世界観に圧倒されて……。
三浦 たしかに説明を重ねるよりも、一度見ていただいた方が、早いかもしれませんね。今回の特集にあたっては、松場登美や、阿部家で働いている見習い女将の大河内瑞からも、多くを聞けるはずです。
[8] ライフスタイルショップ「gungendo」をオープン
三浦 言いそびれましたが、Gungendo Laboratoryの発表にあわせ、従来の“群言堂”を冠した店舗ではなく、横文字の「gungendo」というライフスタイルショップもオープンさせました。おもに根々、Gungendo Laboratory、そして雑貨類を取り扱う店で、店員の平均年齢も30代前後。現在は東京日本橋の「COREDO室町店」、「湘南T-SITE店」の2店舗があります。
関西エリア初出店となる「ラクエ四条烏丸店」も、2016年3月18日(金)オープン予定です。
[9]大森町の暮らしを伝える季刊広報誌「三浦編集長」
三浦 申し遅れました。私、大森町の暮らしを発信する季刊広報誌、「三浦編集長」を作っている広報担当の三浦と申します。
── 突然の自己紹介、ありがとうございます。
三浦 本社や阿部家のある大森町の毎日の出来事や、自然や地域との関わり、ちょっとした雑感などを記しています。毎号ひぃひぃと言いながら一人で作成していますので、温かく見守っていただけるとうれしいです。まれに号外が発刊されます。全国の群言堂店舗に設置したり、オンラインショップでご購入いただいた方にお配りしたりしていますので、機会があればぜひ手にとってみてください。
[10] 根のある暮らしを伝えたい
三浦 さて、今までご紹介した事業内容の他にも、大森町唯一の保育園である「大森さくら保育園」を応援するプロジェクト「We are here プロジェクト」を行ったり、大森町で暮らす人の集合写真を撮ってカレンダーを作ったりといろいろなことを手がけておりますが、すべては大森町の暮らしを発信するという目的が大前提になっています。
三浦 松場登美もよく申しますが、モノを売っているという感覚よりも、暮らしを発信している感覚の方が近いです。もちろん企業ですからビジネスマインドは大切ですが、経済だけを優先すればいいとは思っておりません。
すべては大森町からはじまります。
── あの、もとくらで特集を組むにあたって、ひとつご相談があるのですが。
三浦 はい、なんでしょう。
── 「石見銀山生活文化研究所」とお呼びすればよいか、群言堂とお呼びすればよいか、図りかねております。お話を聞いた限りでは、「石見銀山生活文化研究所」が限りなく正解に近い、というか企業名なので正解に違いないのですが、口頭では「群言堂さん」と呼ぶひとが多いように感じます。今回、私たちの特集では、愛をこめて“群言堂”とお呼びしたいのですが、よろしいでしょうか?
三浦 表記は「石見銀山生活文化研究所(以下、群言堂)」などがよいのでしょうかね。記事については、お任せしますよ。
── ありがとうございます。あともうひとつ、企業理念である復古創新や美しい循環という言葉については……?
三浦 所長に聞いていただいた方がいいかもしれません(笑)。今回、たくさんの記事が「灯台もと暮らし」で公開される予定だと聞いています。
この地に関わる全ての人の幸せと誇りのために、私たちは復古創新というモノサシで美しい循環を継続していきます。
この想いを、一つひとつの記事から感じ取っていただければうれしいなと思います。
弊社のご説明も一通りさせていただきましたし、私の話は以上になります。わからないことがあれば、いつでも聞いて下さい。まあ、この記事が出たあとも私たちは新しいことを始める気がしますし、少しずつ変わっていくのだとは思いますが……(笑)。
(一部写真提供:石見銀山生活文化研究所)
お話をうかがったひと
三浦 類(みうら るい)
群言堂 広報課スタッフ。愛知県名古屋市出身の29歳。東京での学生時代に松場大吉の講演を聞いて大森町に興味を持ち、インターンに行ったことをきっかけに2011年入社。群言堂本店カフェのスタッフを経て広報課に異動し、現在は広報誌「三浦編集長」の発行をはじめ、WEBや印刷物での情報発信や取材対応などを担当している。詳しくは「三浦編集長」末尾の「三浦自伝」コーナーにて半生を振り返っているのでご覧ください。
【島根県石見銀山・群言堂】特集の記事はこちら
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